(写真:関拓弥)
旧上野市庁舎は、1964年(昭和39)に上野市(当時)の庁舎として坂倉準三の設計により建設された名建築である。
しかし旧上野市庁舎は2004年の市町村合併にともない庁舎としての役目を終え、一時は老朽化や狭隘化を理由に解体が検討されていた。
そのような状況の中、2015年にDOCOMOMO Japanより「日本におけるモダンムーブメントの建築」に選定されたことを皮切りに、2017年には日本イコモス国内委員会の「日本の20世紀遺産20選」の一つにも選ばれた。このような近現代建築の価値を再認識・継承・再活用しようとする社会的動きに呼応した市民や建築専門家からの保存/利活用の強い要望を受け、伊賀市の「にぎわい忍者回廊整備(忍者体験施設等整備)(2022年)」の一環として、歴史的文化的価値を残したまま官民連携で再生するプロジェクトへと舵が切られることとなった。
解体の危機にあった貴重なモダニズム建築を、市の財政負担を抑えつつ、民間の自由な発想で魅力的な商業施設に変え、同時に市民のための図書館も整備するという、一石三鳥を狙う最適な手段としてPFI方式によって再生へと動き出したのである。全国各地の名建築が老朽化や経済的な理由から惜しまれながら解体の憂き目にあう中、全国的にも有名な近現代建築をPFIで再生させた先進的なケースと言えよう。また、1階と中2階は図書館やカフェ、2階は元市長室や議員室を客室にしたホテルとなり、地域の賑わい拠点(SAKAKURA BASE)として生まれ変わったことで、古い名建築を現代のニーズに合わせてディテールを継承しつつ活かすという、サステナブルな建築再生の先進事例としての価値も新たに加わった。
改修設計に着手する前に、元設計の坂倉建築研究所にマル・アーキテクチャと一緒にご挨拶に行く機会があった。当時の設計に携わったOBの方がご健在で、坂倉建築に手を入れることに対して、特段の注文もなく、いい建物に生まれ変わらせてくださいねと寛大なお言葉を頂いた。
【建物概要】
・対象建物:旧上野庁舎(旧上野市庁舎)
・所在地:三重県伊賀市旧上野丸之内116番地
・構造種別:RC造(2階議場屋根のみ:鉄骨造)
・骨組形式:耐力壁付ラーメン構造(2階議場屋根のみ:鉄骨トラス構造)
・規模:地上3階(B1F〜2F)、塔屋2階
・床面積:6,155.97㎡
・竣工年:昭和39年11月
・既存建物 建築:坂倉準三建築研究所
構造:平田建築構造研究所
監理:坂倉準三建築研究所
施工:錢高組
・改修建物 建築:MARU。architecture
診断/耐震改修:構造計画研究所
監理:MARU。architecture、構造計画研究所
施工:船谷建設

坂倉建築群の全景(昭和40年代)

改修後、地域の賑わい拠点(SAKAKURA BASE)として生まれ変わった旧上野市庁舎 (写真:関拓弥)
旧上野市庁舎は、北から南に1.8m程度傾斜した敷地にあり、地盤レベルが高くなっている北側は、基礎梁レベルを下げ、増加した高さを利用し部分地下(B1階)を設けている。よって、南側は吹き抜けの大空間のある1階~2階の2層構造、北側はB1階~2階の3層構造となり1階のフロアレベルが違う。北側のB1階は壁量が比較的多く、北側側面のみ地盤に接しており構造的には地上扱いとなっている。
なお、2階の13mスパンの議場上屋根は、既存図ではRC造だったが、鉄骨トラス屋根に施工時に変更されていた。また、本体建物の附属建屋として、西側に基礎梁より上にEXP.Jで本体部と構造的に縁の切れたL字型の附属部分(B1階のみ)があり、西側側面半分と北側側面が地盤に接している。屋上には16m煙突と塔屋があり、平面的には単純な矩形平面だが、立面的にはスキップフロア、南側の吹き抜け空間、傾斜地といった構造的に複雑な建物である。


改修前の図面
旧上野市庁舎は、伊賀市指定有形文化財であり旧上野市庁舎保存活用計画策定委員会(三重大学 菅原名誉教授ら)により「旧上野市庁舎保存活用計画」が2020年に策定され、外観を「保存部分」・「保全部分」・「その他部分」の3つに分類し、保存保護の仕様レベルを指定していた。杉板模様で見える構造躯体の殆どは保存・保全部位に該当し、耐震改修する際は『建物の価値を減じることなく、活用と調和した耐震措置であれば、現状変更により認める。』と謳っていた。
そして「旧上野市庁舎保存活用計画」に基づき耐震補強計画を検討した。補強方針のアプローチとしては、平凡ではあるが、「重量減」、「剛性バランス」、「耐力バランス」をキーワードとして進めた。特に「保存部位」にあたる南側吹き抜け空間を残すことに重点を置き耐震補強設計を実施した。

保存保護の仕様を色分けした図面(赤:保存部分、青:保全部分、緑:その他部分)

1階Y方向の不足する耐力要素について、高剛性のRC系補強と低剛性の鉄骨系補強をうまく組み合わせ、偏心率のペナルティの無いようバランスよく配置するのに苦心した。南側1通りの既存RC壁にRC増し打ち補強を行い、さらに不足する耐力要素は、中2階の14,15通りに鉄骨ブレース補強を配置した。14通りは柱無しフレームのため、枠柱をあえて新設RC柱で構築し接合部破断しないよう配慮した。
補強後の剛性バランス(初期剛性)は良くなったが、鉄骨ブレースがRCに比べ剛性が低く耐力が大きい部材であるため、耐力バランスはどうしても中2階側(北側)に寄ってしまう。そこは2次診断による耐震診断計算とは別に立体モデルによる荷重増分解析を行い、塑性域での耐力の片寄りが3階床スラブを通じで地震力伝達可能であることを確認した。1階X方向については、中2階のトイレ廻りにRC壁補強を付加することで耐震性能を満たすことができた。
最終的には、耐震性能が不足していた1階XY方向ともに付加する耐力要素を最低限に配置し、なんとか南側の吹き抜け空間内をそのまま残した補強計画を見出すことができた。

1階補強位置図

当初、煙突は倒壊の恐れがあるため撤去案もあったが、外観を特徴付けているモニュメントであるため保全することとなった。保存委員会の先生から既存鉄筋を残しでコン斫りをして補強筋を入れ、同じ形状で復旧すれば保全になるとご意見を頂いたが、16m煙突を既存鉄筋残しでコン斫りするのは施工難易度が高かったため断念し、外観が変わってしまうが、意匠とデザインを調整しRC根巻き補強(2FL+6.2mまで)を行うことにした。
改修に伴って吹き抜け空間に階段を新設することになり、タイロッドの吊り階段を採用した。周辺に壁が無いため、横揺れの抵抗要素を踊り場奥の目立たない所に既存梁から吊ったH形鋼ラーメンフレームを作り、地震時の揺れを抑える抵抗要素とした。長期荷重の掛かるササラや吊り材、H型フレームと既存RC梁との接合部は、あと施工アンカーではなくすべて貫通ボルトを使用している。


本記事にはSTREC協会ニュース74号「旧上野市庁舎の再生プロジェクト」より引用した内容を含みます。



























































































































































































































































































































































































