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高層風車タワーのフィージビリティスタディ

藤下 和浩

コンピュテーショナルデザインを用いた最適設計を土木構造物に適用し、日本では前例のないコンクリートと鋼の複合構造による次世代風車タワーの構造フィージビリティスタディを実施しました。

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○概要

近年風力発電の更なる効率化が求められ、風車の大型化、高層化が進んでいます。高さは100mを超え、発電容量は10MWに迫る勢いで活発な技術開発が進められています。風車タワーの大型化、高層化により、ハブ・ナセルの高さおよび大きさが増加することで片持ち梁の根元となる風車基部の転倒モーメントが大きくなるため、部材の輸送限界などから通常の鋼製タワーによる設計は困難となります。そうした中、転倒モーメントの大きいタワー下部のみ異種構造(PCコンクリート、トラス構造など)を用いたハイブリッドタワーが既に提案されています。本プロジェクトでは、タワー基部のみ径の制約が緩いPCコンクリート部材を用い、上部は通常同様の鋼製タワーを用いたPCハイブリッドタワーの日本での将来的な建設を見据えたフィージビリティスタディを行いました。フィージビリティスタディにおいては、形状検討及び地震を想定した時刻歴応答解析を実施しました。

PCハイブリッド風車タワーのコンセプト

○設計フェーズにおける最適設計法の活用

建設前例のない構造形式を対象としたフィージビリティスタディでは、日本の設計指針のもとで構造が成立するための仮定断面及びその部材量を提示する必要がありました。種々の高さでの概算建設コスト算出および事業性評価を見据え、本案件では遺伝的アルゴリズム(GA)を用いた最適設計法を導入しました。

本設計での設計変数はタワーのコンクリート断面形状に加え、導入するPCケーブルの本数も加わります。そこで種々の構造クライテリアをあらかじめ決めた上で、それらを満たす最適な設計変数をRhinoceros+Grasshopperによるコンピュテーショナルデザインにより決めていきました。PCケーブルの施工会社とのやり取りを通じて、クライテリアや各部材の形状仕様を少しずつ調整しながらのプログラム構築作業となり、依頼主や設計者間でのディスカッションを行いながら、設計を進めていきました。

構造検証に際して構築したプログラムにおいては、構造形状の生成および静的な風荷重(短期暴風時)の算定、設計指針に基づく構造評価(筒体断面照査、基礎の転倒、滑動、支持力検討)など一連のフローを構築し膨大な形状ケースについてスタディを行う環境を整えました。構築したプログラムを用いながら、形状制約や設計クライテリアを満足する最小部材量を最適設計により導出し、仮定断面提案の目安としました。

このようにプログラムを構築することにより、同種の構造形式における様々な風車規模を想定した場合において様々な形状パラメータを操作したときの発電規模と施工コストの相関性などが定量的に評価できます。そのため、各構造指標の重要性を判断できるエンジニアが正しく援用することにより、将来の建設を見据えた風力発電事業全体の事業性評価にも役立つと考えられます。

GAを用いた最適設計法の概要

プログラム構成

○洋上風車フィージビリティスタディなどへの展開に向けて

現在、日本国内では洋上風車建設に向けた技術開発が盛んに進められています。着床式の洋上風車の基礎形式として、モノパイル、ジャケット、重力式基礎など様々な構造システムが提案されており、日本での実現に向けて様々なサイトを想定した概略設計が行われています。弊社もそうした多くの洋上風力プロジェクトに関わっており、そうしたプロジェクトへのパラメトリックデザイン手法の活用も期待されます。こうした土木構造物の設計は、形は力学的、環境的な側面を中心として決められるものが多く、かつ建築に比べスケールが大きいため部材設計におけるコストインパクトが大きいといえます。したがって、解析により得られる定量的指標を対象としたこうしたパラメトリックデザインとの親和性が高いと考えます。

洋上風車ジャケット基礎のパラメトリックデザイン

<対外発表論文>

藤下和浩、関根渉、木村まどか、八木洋介、岩崎麻美、岡田直仁:風力発電を目的とした複合材料を用いたタワーの最適断面設計,構造形態創生コロキウム2018,2018.10.18

MEMBER

関根 渉

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