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KKEの木質への想いと歴史 ~木質×創造×こだわり~

1.城郭建築からの木造への挑戦

1956年に構造設計事務所として創業した弊社は、和歌山城を皮切りに熊本城や小田原城など戦後復興期の日本の城郭復元プロジェクトに関わりました。そんな中1959年、火災や風水害の防止を目的に危険の著しい地域に対する制限の一つとして日本建築学会より「木造禁止」が提起されました。そのため比較的規模の大きな天守などは耐震性や耐久性等への配慮も踏まえて当時は鉄骨鉄筋コンクリート造などが採用されていました。

このような状況の中で、弊社は1980-1990年代には高田城極楽橋や郡山城追手門など木造での再建にも積極的に挑戦しました。

高田城極楽橋

郡山城追手門

2.木材利用の“追い風”、そして「木質創造デザイン室」へ

2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出量と吸収量・除去量を均衡させ全体としてゼロにする、すなわち「カーボンニュートラルの実現を目指す」ことを宣言しました。それに伴って、炭素を貯蔵できる木材の利用促進に関する法律の対象が公共建築物から一般建築物に拡大するなど、建築分野での木材利用を後押しするような法整備も進められています。

弊社は2013年に耐火木造に関するガイドライン作成に構造コンサルタントとして参画したことを契機として、有識者の方々とのご縁が広がりました。そして現在まで国内での木材利用促進に向けた制度設計に関わらせていただいています。さらに今では、木質構造の構法開発や構造設計も任せていただくようになりました。構造設計部に「木質創造デザイン室」が確立し、制度設計で得られた最新の国の動きや法整備等に対する深い理解を活かして木質構造に関連した幅広い業務を担っています。

本コラムでは現在までの歩みを辿り、その挑戦と未来への展望をご紹介します。

3.土台づくりの日々 制度設計への参加と試設計

弊社が木質構造に本格的に足を踏み入れるきっかけとなったのは、2010年に施行された「公共建築物等における木材利用促進法」でした。これまでは木造といえば戸建て住宅中心でしたが、公共建築物を木造で実現させるためには新しい技術を用いる必要がありました。しかし当時の社内には木質構造に関する十分な実績がなかったため、木質構造の実績がある事務所にも参画していただき、深い知識やノウハウを学ばせていただきながらプロジェクトを進めました。

一方で、2010年から2015年頃までは木質構造に関するご依頼は限定的で、実施設計まで任せていただくことはありませんでした。混構造や木質ラーメン構造など、イレギュラーな木質建築物の「試設計」を通じて設計手法の研鑽を重ねる日々でした。この期間に培われた経験と知識、そして学術界の先生方から教えていただいた本質的な木質構造への理解が、弊社の「木質創造デザイン室」の土台となっています。

RCと木造の平面混構造 試設計

木質ラーメン構造 試設計

4.オリジナルCLT工法開発との出会い ひたむきな試行錯誤、その先に

大きな転機が訪れたのは2016年のオリジナルCLT工法開発プロジェクトでした。京都大学の五十田博先生につなげていただき、ライフデザイン・カバヤ株式会社のご担当者からご相談を受け、CLTパネルを用いた中低層向け建築システムの研究・開発のコンサルティングをさせていただきました。京都大学、広島大学と民間企業数社が関わるプロジェクトのため、技術的知見の提供だけでなくプロジェクト全体の統括も求められました。

本プロジェクトは従来のご依頼とは異なり、オリジナル工法専用のシステム開発依頼も受けていました。そのため弊社でシステム開発を担う部署とも連携し、設計支援システムの開発から運用支援まで全社一丸となって対応することとなりました。

このように「包括的な視点で状況を整理し、お客様に寄り添った一気通貫の絵姿を実現する」という弊社の強みを木質構造の分野においても実現させることができました。

また本プロジェクトでは、方針検討、接合部開発、実大振動台実験、実施設計、任意評定取得、システム開発を並行して進める必要がありました。CLTが告示化されたばかりで不明点が多かったことに加えて複雑な形状を実施設計でどのように成立させるか、将来的に展開させやすい工法はどのようなものかについても考える必要がありました。

意匠を担当されたお客様と遅い時間に電話することもしばしばで、へとへとになりながらもなんとかお応えしたいと試行錯誤を重ねました。この経験を通じて、制度設計と研究・開発のコンサルティングから始まった弊社独自の強みを確立することができました。また、難しい実施設計に挑む機会をいただいたことでお客様のニーズに応えるための新たな道を切り拓けたと、当時の関係者の皆様には大変感謝しております。

実大振動台実験

CLT壁柱+S梁勝ち構造を採用した事務所

5.構造設計×実験開発×制度設計の知の循環を大切に

現在は、伝統木造に加えて一般的なものとは異なる構造技術を組み入れた新築設計や耐震診断・耐震改修にも力を入れています。事務所や幼稚園、共同住宅など、設計する建物の幅も広がっています。そして、企業向けの実験開発コンサル、制度設計業務にも引き続き従事させていただいています。

これは「大学、研究機関と実業界をブリッジする」という弊社の企業理念と通じるものです。これからも知の循環を大切にし、多様な社会課題の解決にも寄与すべくより良い木質構造の普及促進に貢献していきます。木質構造に関する様々な取り組み・チャレンジをされる際にはぜひお声がけいただければ幸いです。

弊社が構造設計を担当した「CLT」と鉄骨造を融合したハイブリッド構造の5階建てテナントビル「鍵利CLT BLDG.」(2025年10月竣工)

完成見学会にも参加しました

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