©2023 Fujinari Miyazaki
長崎市のアーケード商店街、ベルナード観光通りに新築されリニューアルオープンした和泉屋(長崎カステラ、長崎中華製造販売)の本店です。国産スギ材を用い、木をふんだんに使用したファサードが特徴的な3階建ての店舗です。
所在地 :長崎県長崎市万屋町4-16
用途 :店舗
構造種別 :鉄骨造
階数 :地上3階
延床面積 :133.37m2
竣工 :2023年10月
建築主 :和泉屋
設計者 :隈研吾建築都市設計事務所
構造設計者 :㈱構造計画研究所
施工会社 :上滝
ファサードは、不燃処理を施した105mm角のスギ材を160mm間隔で積み上げる構成であり、建物本体からアーケード側に持ち出した片持ち部分に挟まる形となっています。
平面をひねったようなデザインは、段ごとに三角形の形状と平面的な位置を連続的に変化させて「ずらしながら積層する」ことで実現するデザインです。
当初鉛直部材を角パイプで考えていましたが、製作・施工の観点から、鉛直部材を木に変更し、ファサードは木のみで構成しました。
鉛直部材は鉄骨(またはコンクリート)とボルト取り合いとし、その他の木材同士の接合についても強度確保の観点から当初ボルト取り合いを想定していました。しかし、製作・施工精度の観点で実現性が低いことが判明し、悩んだ結果パネリードS(シネジック)を用いて接合することに決定しました。
これにより、強度を確保しつつ、現場合わせの融通性も期待できる施工方法を立案することができました。
本建物では木質化を選択しました。それは、構造安全性の確保とデザインの自由度の確保の両立を、様々な制約条件の中で実現するためでした。
しかし、木質化の選択は施工においても存外のメリットがあり、木材の現場における加工性の高さという利点を生かした、複雑な形状、取り合い部分を現場合わせで施工することが可能になりました。
mm単位のプレファブリケーションである鉄骨造と現場合わせの木部分がうまく融合し、良い建物を作ることができました。
構造設計における木の利活用に関して、木造orハイブリッドor木質化のいずれを選択するかという問題は、様々な選択と解決方法があると思います。
木を利用した建物について「構造設計の難易度」や「コスト」など様々な評価軸に対してどの辺りを狙うのかは、建物ごとに異なる選択があり、唯一の正解というものはないと思います。
そういった意味では、木造orハイブリッドor木質化という問いの立て方よりも「木造もハイブリッドも木質化も」の心持ちで柔軟に木を取り入れる姿勢を重視した建物となりました。