WORKS

免振上部梁の補強配筋

神奈川県新庁舎免震改修

竣工年 2018.03

裵 根國

 東日本大震災を機に、大地震時・津波災害時における業務継続性を強化することを目的に、複数ある庁舎の改修計画を行いました。各庁舎の構造特性に応じて、免震・制振・耐震改修を実施したプロジェクトです。そのなかでも新庁舎は免震レトロフィット改修を行っています。免震層を駐車場として活用するための柱頭免震・土工事なしでの改修設計・施工方法や手順を考慮した補強設計・改修できない既存部への配慮・土木スケールの跨道橋改修・居ながら工事であるため施工時の安全性確保など、設計 施工 監理ともに高い技術力と経験が求められる大プロジェクトでした。

...read more

既存建物の構造概要

 新庁舎(増築、免震改修)、第二分庁舎(制振補強)、本庁舎(設備棟増築)の改修を行いましたが、ここではメイン改修の新庁舎免震改修(構造)について述べます。下に新庁舎の全景写真および複数庁舎の配置関係を示します。
 新庁舎は1966年竣工された神奈川県庁の議場(3層吹き抜け&無柱空間)と執務空間、展望台(屋上)を有している建物で、地下1F、地上13F、塔屋2FのSRC建物です。基礎は直接基礎で、上部構造はコアと妻面にコア壁を有する耐力壁付きラーメンです。

全景写真「撮影 小川重雄」

神奈川県庁舎の配置図

既存地下階を免震ピットに改修

 既存建物の基礎構造は、地上部より広い地下階を設けることで、フローティング基礎として直接基礎を採用していました。この地下空間を免震ピットに転用する計画より、土工事なしで免震レトロフィット改修を行う計画をしました。
 更に免震ピットを駐車場として活用したい要求があったので柱頭免震を採用しました。しかし免震上下梁に発生する力が大きく、免震層周辺部材の補強計画が大きな課題でありました。既存躯体の寸法・階高の条件と駐車場の用途から要求される条件を満たすことは容易ではなく、設計段階で一番苦労した部分でもあります。
・免震クリアランス
・免震上下梁の補強サイズ
・柱頭免震の耐火規定
・Exp.J工事後片持ちになる地下外壁

免震改修イメージ

補強要領

 柱頭免震であるため、免震上下梁に地震時に大きな力が発生します。更に免震化工事の時、ジャッキアップに耐える補強が必要があります。色んな工法を検討しましたが、経済性や施工性を考慮して既存柱を避け既存梁に補強梁主筋孔を開け、補強主筋を貫通させる在来補強を採用しました。なお、免震上部梁はジャッキの設置部を確保しながら、発生する応力に合理的なドロップハンチ形状としました。施工が容易な補強方法ではありませんが、既存躯体の状況(梁のたわみ、鉄筋・鉄骨位置、実際の梁サイズ)に合わせて柔軟に対応できたため、今でもいい選択だったと判断します。

免震上下梁の補強例

免震化手順および施工時の安全性確保

 免震レトロフィットを採用した理由として、居ながら工事できることが重要なポイントでした。そのため、免震化手順の検討および施工時の安全性確保が重要であり、設計段階から詳細な検討をする必要がありました。施工計画より部材の補強方法、工期に影響することはもちろん、施工時の安全性確保にも大きく影響します。
 免震化工事が進ことに耐震部材がなくなるため、免震化工事の終盤になると施工時の安全性を確保することが容易ではありません。さらに、連層耐震壁を有する建物では地震時に変動軸力による浮き上がりが発生します。引張力に弱点を有する積層ゴムに引張力が導入させない対策も必要になります。

設計時のスケッチ(施工手順)

その他改修工事

 免震レトロフィット改修に伴い、隣接している庁舎をつなぐ二つ跨道橋のエキスパンション改修が必要になります。改修後は免震建物と連結されるため、建物と同様にジャッキアップを行い、躯体との縁切り、支持部材および支承の新設、エキスパンションジョイント取り付け工事を行いました。施工時道路を封鎖することはできないため、土木工事で使用する仮設で施工しました。
 他にも議会場天井の補強工事、塔屋での耐震改修、既存不適格部の是正工事(EV改修、階段の拡幅改修)など、多様な改修を行いました。エネルギーセンター棟の免震増築を含めると、多種多様な経験ができたプロジェクトでした。

MEMBER

川端 淳

三好 祐治

裵 根國

WORKS一覧に戻る